9月は乾燥の季節




2013
かつてアトピー肌がひどかった頃。
9月の声を聞いたとたんに、皮膚がパサパサになった。
今年は湿度の高い状態が続いているようで、アトピーの人には過ごしやすい秋の入りかもしれない。
逆に言えば、蒸し暑さや汗による悪化が続くのかもしれないけれど。

11月や12月になり「空気が乾燥していて、皮膚も乾燥して困る」と言えば、「そうだね、辛いよね」という同意も得られよう。
だが9月に「皮膚が乾燥する」と言ったら、「何言ってるの」という顔をされそうだ。その批判の視線が、胸に突き刺さる。

湿度が90%から50%に下がっても、景色に一見目に見える変化はない。
しかし私たちの体は、その変化を鋭敏に感じ取る。

感覚は五感で構成される。決して、目のみではない。
触覚を主体とする皮膚の感覚が、変化を感じる急先鋒だ。
かくして真っ先に肌が、湿度低下の影響をこうむるのか。

湿度をまめに計測すれば、値が目に見えて納得しやすいのだろうか。
だが、湿度計は温度計より格段に、正確さの担保が難しい。
そこへいくと私たちの体は、非常に優れたセンサーだ。
値を得るだけではなく、中枢である脳に上申し、分析と即座の対応までを引き出す、総合コンピューターである。
そうして、低湿度への適応が開始される。

夏の高温多湿時は、体温を下げるためにたくさんの汗が出るが、その蒸散は湿った周辺環境に妨げられ、皮膚表面がじっとりと蒸れた状態になりやすい。
汗の出にくいアトピーの人では、それでやっと人並みの発汗かもしれない。
それが秋になれば、暑さが収束した分だけ、汗の出は如実に減少する。
かいた汗も蒸散しやすくなり、皮表の湿度は確実に低下するだろう。

過ごしやすい季節になったはずなのに、皮膚が乾燥し、ピリピリ、チリチリ。
なんとも不快な痛痒さに耐える日々が訪れる。
ヒリつかないときも冬に向かう乾燥悪化の不安に怯え、派手な湿疹ではないから同情も引けない。患者だけがひとり、悶々とすることになる。
そんなアトピーの辛さ、それは多くの病気に共通する苦悩の図式。
さながら干ばつの地面のように、保湿剤を塗れども塗れどもすぐ干からびる肌。
乾燥の悩みは、冬中続く。

おかげさまで私のアトピー肌は、治療の甲斐あって万年粉ふき状態を脱しつつあるように見え、さして四季の季節変化の苦痛を感じることもなく過ごせている。
それでも秋風が吹く頃になると、涼風にすら耐えかねたあのアトピー療養の日々を想い出す。

負けてはいけない。
生きて、あがき続け、あきらめなければ、その先に希望はきっとある。

2019.9.

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2019