病歴のはじめに




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患者の体験談というものは、科学的でないと馬鹿にされがちなものです。

しかし、アトピー性皮膚炎(以下アトピー)のような病気、すなわち非常に「多因子性」で、「慢性」で、かつ「定量化しにくい」疾患に於いては、多数の患者を動員した厳密な統計的調査は困難を極めます。他の因子の影響が完全に排除できない以上、調査で出た結論に、疑問を差し挟む余地が存在することにもなるでしょう。

だとすれば、その中で、現実に病気に苦しむ人たちを少しでも救うために、私たちは何をすべきなのでしょうか?。完全な証明を待つのでなく、証明しきれなくても、疑わしきものをなるべく減らしていくという予防原則を採らなければならないと、私は思います。

その際に、患者が現実にどういう状況で悪化しまた改善しているかという情報は、貴重なものとなってくると思うのです。
実際自分の過去を振り返ってみると、そこにアトピーを呼び込んでしまうような生活態度と、その改善のヒントが、透けて見えるような思いがします。


また、アトピーはとても経過の長い病気です。ある一時期だけ皮膚がきれいになったとしても、その後ひどい状態が延々と続くなら、患者にとってはその治療法の意義はぐっと低くなります。しかし、医療サイドからの調査は、その殆どが短期間の予後(長くて1〜2年)で論じられています。
であれば、患者と医師の病気に対する見解に「乖離(かいり)」が出てくるのは、むしろ当然のことと私には思えます。

患者の人生まるごと位の長期の経過を見ることで、見えてくるものがあると思うのです。


さらに、痒みや痛みという自覚症状は患者本人しか感じないものですし、悪化して社会生活が営めなくなった患者は人目に触れなくなります。

患者の苦境は、しばしば医師も含めて周囲の人に理解されにくくなって(或いは誤解されていて)、それが患者の闘病をより困難にもしている現状が、私にはとても悲しいものに思えます。

患者のありのままの思いや生活状況を記すことが、その理解の一助になるものなら、と、これはとても儚(はかな)い望みだと分かってもいますが、そんな思いを抱かずにはいられません。


大変個人的な事項ではありますが、そうした理由から、ここから、私が生まれてからの病歴と生活歴を書き連ねて行こうと思います。

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