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 社会学


子どもはなぜモンスターになるのか 脳を蝕む生活習慣から子どもを守る232の方法★★★★★・・・

この壮大な問題を、大きく9つの章に整理して、著者は論じている。
1食事・2外遊びの減少・3睡眠・4コミュニケーション・5家族・6教育・7消費文化・8電子機器の発展・9行動様式。
それぞれについて、世界中の研究調査事実をふまえつつ、多様な問題点を細部にわたってあぶり出し、具体的な対策までを提示する。
この姿勢は素晴らしい。

英語に、"complex"という言葉がある。いくつもの要素が合体した複雑なもの、という意味である。
日本語にはその適当な訳がない。「複合体」が一番近いだろうが、滅多に使われない言葉である。
それすなわち、日本人は一般に、complexという概念になじみが薄いということなのではないかと、私は思っている。

物事全て「原因があって結果がある」のが事実だとは思うけれど、現実では、大概の場合、多数の原因とその結果が複雑に絡み合って、何が何だか因果関係の掴みようもなくなっているものだ。
その原因と結果をはっきりさせようと思うなら、それが複雑なものだと理解した上で、絡まってぐちぐちゃになった何本もの糸をほどくように、ゆっくりと1つずつ、原因と結果をほどいていく作業が欠かせない。
もちろん、問題解決にあたっても、原因を1つずつ少しずつ、丁寧に除いていくしかないだろう。

こういう姿勢を、私たち日本人も学ぶべきだと思う。
言うまでもなく、アトピーになぞらえて、私はこう書いている。
アトピーになる原因や、アトピーが治るための手段を、ただ1つのものに限定する見方は、私にはどうしても浅薄にしか思えない!。

現実は複雑である。
それを無視するのでなく、それに負けない地道な努力をこそ、私は尊いと思う。

さらに、著者が述べている問題は、ほとんど全て文明の発展がもたらしたものである。
その意味でも、アトピーの悪化要因とだぶる部分が少なくなく、アトピー患者にとっても興味深い本ではないかと思う。

アトピーを、ただの病気としてではなく、社会との関わりの中で捉え、患者が生きていく方法も(治っていく道としても病と共存していく道としても)、社会の中で見つけていかなければならない。
こうした社会学的な視点が、これからはどうしても必要であろう。


「新型うつ病」のデタラメ★★★★★・・・

著者は経験豊富な精神科医。
新型うつ病の本の帯「自分を責めず、他人を責める・・でも、つらい」に自己愛の肥大を読み取り、「つらい・・でも、自分を責めず、他人を責めず」という生き方のできる「徳」と「仁」を備えた人になってほしいと説く。現代人の精神力の弱さ、病気に逃げ込む風潮を強く憂えている。

うつ病とはどういうものか、理解の歴史的変遷や著者の臨床経験も交えての解説は、率直で明確。


人間にとって病いとは何か★★★・・・

夫の三浦朱門氏を91歳で見送って間もない、自らも80歳代後半と長寿の著者。
その思考や文章に衰えは感じられない。
だが、タイトルに対する答えを求めて読もうとすると、期待外れになるかもしれない。これはエッセイ本である。
本書の中で病気に関し網羅している主題は幅広いので、著者の体験をなぞることを、自分にとっての病いは何かを考えるよすがとすれば良いのだろう。