それでも脱ステロイドは必要




日本全国に皮膚科専門医は現在1万人以上。
一方、アトピー性皮膚炎の脱ステロイドを支持する医師は、他科を含めても2桁の人数。
圧倒的少数のまま推移している。

なぜ増えないのか。
それはステロイドが、文明の象徴だからかな、とこの頃思う。

私たちの生きているのは、高度に発達した文明社会。
機械や電気やコンピューターや石油製品や合成化学物質・・。
ほんの100年200年前にはなかったそれらの物質の恩恵で、快適な生活を送っている。

そんな中で、昔の自然な生活は、懐かしむものでこそあれ、現実に選ぶべきものではない。
人々はどんどん開発の進む都会へ移っていき、田舎に残る人は減り続ける。
誰だって、いい暮らしがしたいから。

敢えて自然素材の家を、有機栽培の作物を、電気を使わない生活を選ぶ者は、
奇妙な人だと好奇の目で見られるのがおちだろう。
仲間はずれである。

身近な人々との共同体をつねに重視し、その空気を敏感に察しては、ときに自分を曲げてでも失ってでも、和を乱さないことに力を注ぐ。
古来、そんなメンタリティを持つ日本人。
仲間はずれは、耐え難いほどつらいだろう。

だからいつも多数派の人が、文明社会共同体の大方針になびいていく。
文明社会に在って文明の利器を拒絶する変人と見なされないために。


だがそれでも「脱ステロイド」は絶滅していない。
きっとこれからも絶滅しない。
圧倒的少数であることは、間違っていることとイコールではないのだ。

文明は繁栄を目指し、開発を続ける。
開発は、既存の何かを壊し、私たちは代償としてそれを失う。
新造された何かが、予想外の悪影響をなすこともある。

文明という光の後ろには、必ず影ができる。
幾多の現代病もまた、こうした影。
アトピー性皮膚炎しかり、化学物質過敏症しかり。

多種化学物質過敏症で何を食べても具合悪くなり進退きわまった人が、木村秋則さんの作ったりんごだけは食べられて息を吹きかえした、という話がある。
運悪く、文明世界の弊害に致命的に悩まされることになった人は、その世界に住み続けながらも、なお違う道を模索せざるをえなくなるだろう。
昔に生まれ直すことなどできないのだから。


アトピー性皮膚炎の標準治療であるステロイドや他の免疫抑制剤(外用のプロトピックや内服のネオーラル)が、たくさんの患者の症状を軽減させ、生活を容易にし、救いとなる。
これが現代文明社会での、理想的図式。

けれど、治療の世界にもやはり光と影がある。
それでもよくならない、またはそれを続けているうちに、ある時点でどうにもならなくなる人たちがいる。

不真面目に治療してたからでなく。
いいかげんに生きてきたからでもなく。

たとえ多くはないとしてもそういう人たちがいる限り、「脱ステロイド」の必要性が尽きることはないだろう。


主流派が主流派であるのは、多数が行きたがる道だからだ。
もっとも安楽で、安定していて、うまみがある道ということである。
ならばそれ以外の道を行くのは、すなわち厳しいと心得ねばならない。

脱ステロイドで、安楽・便利・簡単・確実な道はおそらくない。
覚悟をして臨まねばならない。

私も開業して3年余りになったが、その間来て下さった患者の方々の中で、良くなった方もいれば、ならなかった方もいる。
ならなかった方には、まことに私の未熟を申し訳ないと思う。
併せてその方々が挑戦して下さったことに感謝している。

世界中の医者の圧倒的多数がこれが一番と考えるステロイドにも他の免疫抑制剤にも頼らず目指す、アトピー性皮膚炎の改善。
この、ヒリヒリかつわくわくする難問への取り組みの中で、来年もまた生きていきたい。


くじけずあきらめない皆様の上に、たくさんの幸運が訪れますように。

2013.12.  




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