背筋を伸ばそう




世界的に見ても、日本人には猫背が多いのではないだろうか?。
ここ10年、20年、あるいは30年くらいの間、それがますます進行しているように見受けられる。
なにしろ子供がひどい。その次に10代、そして20代の若者がひどい。

顔が前に突き出て、肩は丸まり、腕が内側に入って、胸は縮こまり、お腹が極端に凹んで服の上からでも皺が見えるほど、腰は後ろに傾いて、太腿がだらしなく前に投げ出されている。
もっと言えば、鼻が詰まっているせいなのか、口はいつもぽかんと開きっ放しで、唇が突き出て分厚くなってさえいる。

こんな姿の人が多い。
椅子に座れば、座面の前の端にかろうじて骨盤が載っており、曲がった背を背もたれで支えて、顔は前に向かって垂れている。
例えるのならば、しおれかかったひまわりのよう、とでも言おうか。
電車の中で、映画館で、喫茶店やレストランで、街の至る所で見かける。

失礼ながら、どうにも美しいとは言い難い姿である。
その割に、不思議と問題視されていることはあまりないようだ。
あまりによく見かけるので、口うるさい私のような人間でさえ、これが現代人の普通の姿であったかと、分からなくなってきかねないほどである。

腰が曲がっているのは、お爺さんお婆さんの専売特許であったはずだろう。
ところがどうも昨今では、それが怪しくなってきている気配がする。
これらの若者が年をとっていけば、50代、40代、いや、下手をすれば30代くらいでも、腰が曲がって頭が上げられない人たちが出てくるのではないだろうか。

美観だけの問題で済めばいいが、程度が強くなれば、身体の機能にも障害を生じてくるだろうことを、私は懸念する。

曲がった形のまま老化して硬くなっていく骨と関節を、ある時運動などで無理に伸ばそうとすれば、最悪の場合背骨の中を通る脊髄を傷付ける可能性さえある。
むろんそこまでいかなくとも、本来の位置にない背骨の配列は、そこから出入りして全身に行き渡る神経の働きに、影響する可能性は充分にある。
胸が縮んでいれば、肺や心臓が充分膨らめなくなるかもしれないし、お腹が凹んでいれば、あらゆる腹部内臓が圧迫されて、その機能が低下しうるだろう。
成長期からそういう状態にあり続ければ、内臓が充分成長できずに終わってしまうという、取り返しのつかない事態も予想される。

どうしてこんな姿勢が増えたのかには、議論があるだろう。
パソコンやゲーム機を扱うことが多いから。
デスクワークが多いから。
日本人の体に合わない大きな椅子やソファに座るから。
小さい時からランドセルで重い物を背負うから。
甘いものの過食や偏食がビタミンやミネラルの不足を招き、筋肉の緊張などの働きが不充分になるから。(これは口呼吸とも関係づけられる)。
アレルギーで息が苦しかったり体がつらかったりで体力がなくなるから。

理由は多分、複雑で複合的である。

何が原因であるにせよ、憂慮すべき事態のように思う。
それが個人の病気に繋がるのならば、日本にそれだけ病人が増えていくということである。

一方で、悪い姿勢をアレルギー悪化の一因とする考えも、むろんある。
アレルギー患者は、病気のため活力を損なわれ、力が入りにくく、むしろ姿勢を崩し易いかもしれない。
それでも、逆説的ではあるが、損なわれた機能を補うために、良い姿勢を目指すことが、おそらく健康な人よりも重要になるだろう。

いい若い者が、ぐにゃぐにゃの腑抜けた姿勢で、体中の筋肉を甘やかし、関節に異常な姿勢を教え込んでいるのは、いかにも、もったいのないことだ。
椅子には深く腰掛け、骨盤を立て、頭の上からぴんと張った糸で吊られているかのように、背筋を伸ばし、胸を張ろう。
顔つきに、目線に、いままでにない鋭さが出てくるのではないかと思う。

背骨は、24個の平たい円柱形の椎骨と、その下で骨盤の中心となる仙骨とから成っている。
頭蓋骨に連なる頸椎7個は前に膨らんだカーブ、続く12個の胸椎は後ろに膨らんだカーブで肋骨とともに胸郭を作り、その下で5個並んだ腰椎は前に膨らんだカーブで重みを支え、後ろに膨らんだ形の仙骨へ繋がっていく。

あなたの腰椎は、前に膨らんだカーブを描いているだろうか?。

2008.6  

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