[浴衣の夏祭り]




. 夏祭りに浴衣を着た。
紺の花模様に、黄の帯。


振り返ってみると、子供の頃以来、着た記憶はない。

お洒落にもレジャーにも関心の薄い、非活動的な青春時代だったような気もする。
それゆえアトピーになったのか、アトピーだからそうなったのか、さながら卵とにわとりのような関係か。


何しろ使いつけないものは恐い、着慣れないものは恐いという、不自由な身である。

新しいものを一回使ったがために、痒みや湿疹の苦痛がまた増え長引く可能性を思うと、何をするのもおっくうになってしまう。
ことに状態のひどい時は、些細なことも大きな刺激になるので、おちおちとできない。


着ようかな、と思ってから三年かかった。
去年は、買って、洗濯しただけで
(新品は必ず加工保存時の影響を除いてから着る・アトピーゆえの習慣)、
袖を通さないまま秋を迎えた。
今年もさんざん迷って、洗ってアイロンまで掛けてからまだ止めようかと思っていた。


着てみたら、案外悪くなかった。

何しろ綿100%の、軟らかい生地だ。
薄く風通しが良く、ことに腋の下や大腿は蒸れにくくて、暑い中でも過ごしやすく痒くなりにくい。
硬い帯は嫌だったが、緩めに巻いたら、思っていたよりは風が通り、また広く平らに圧迫するので、どこかが当たって痒くなるということもない。

これは存外アトピーの人間向きかもしれないなどとさえ思っていた。
さすがに翌々日(このタイムラグは遅延型過敏反応ゆえか−)には、腰まわりの皮膚の荒れが少し強くなり、痛くはなったが。


ともあれこうして実際に着る気になったのは、体調に余裕が出てきたからに他ならない。
同じく新調した浴衣を着てはしゃぐ娘と、並んで写真を撮った。
まだアクセサリーのひとつも腕時計も、痒くなるので付けられない私にとって、ひとときのお洒落だった。


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夏祭りというささやかな非日常が、人々の心を慰める。
御輿・踊り・屋台・ヨーヨー釣り・綿菓子・・・・・。
日本の夏を彩る風物は、眺めているだけでも心地が良い。

これ程の暑さにもめげず、大勢繰り出している人たち。
きっと皆同じ思いなのだろう。

浴衣はその風景に、鮮やかに溶け込む。自らが、美しい夏の画のひとつの構成要素になれるような、その快感。


砕いたばかりのかき氷が美しい。
合成着色料たっぷりのシロップがけでなければ食べたいのに、と横目で見ながら通り過ぎた。


生きて行くことはしばしば苦しい。
だからそこに、喜びのかけらをちりばめることが必要になる。

その力で、明日もまた生きて行こう。

2004.7.  

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